ほろ酔いにて候 〜付け足り  (お侍 習作93)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 


二人きりで旅をしていると、
いろいろと見えて来る意外なところというのも多々あって。
極端な苦手もなくの何でもそこそここなし、
あったとしてもその大半は、最初からまるきり知らぬものだったから…という久蔵が。
寒いのは堪えぬが暑いのは苦手だとか、
実は甘いものが大好きだったとか。
神無村で覚えたらしき子供の遊びが存外気に入りで、
行く先々の寒村なぞで、
世話を焼くのが得意そうなお嬢ちゃんに見抜かれてのこと。
気がつけば姿が見えず、村の中を探したその末、
その背を屈めてお手玉やせっせっせ遊びの輪の中に紛れていることがたまにあるとか。

 「………想像が出来ませんが。」
 「さようか?」

おはじき遊びの勝敗へムキになっておる顔なぞ、
その真摯さが、どの娘御にも勝るとも劣らず、そりゃあ愛らしいものぞ?
あと、知恵の輪にも関心があるらしゅうての。
いつぞやなぞ、やはりムキになりおって、
結局こっちが放り出されての一晩中、相手にされなんだほどで…。

 「はいはい判りました。
  それよりも。お酒へごねるお話はどこへゆきましたか?」
 「そうそう、それよ。」

辺境の片田舎に出向くことが多いので、
そういう土地ではどうしても、
麗しくも気の利いた、話相手の上臈を招ける訳でなし。
せめて晩酌のお酒だけでもと、大いに勧められること多々あって。
とはいえ、呑めたとしても二、三合が限度。
いや、弱くなったというのではなく、
それ以上は我慢が利かぬか、あれが邪魔をしやるだけの話よ。
じりと膝を進めて来やっての、人の手から盃を奪うと遠くへ放り、
それと入れ替わりのように、
こちらのお膝へ乗り上がって来やるのはいつものことで。

 『呑み助は嫌いか?』

間近になった白い耳元。
くすぐったがるのは百も承知、
わざとに低めた掠れ声にて、白々しくも訊いてやれば、

 『…。/////////

そんな態度がもう既に、
頑是ない子供の駄々と等しいというのは判っておるか。
それでも引かず、むしろ開き直ってか擦り寄って来。
むずがるように目許を眇め、赤い双眸潤ませて。
そっちこそ酒のほうがそんなに好きかと、詰るように見上げて来やる。
何か言いたげな口許もまた、
こちらは紡ぐ言葉を知らぬまま、うずうずと震えて落ち着かず。
吐息に濡れての赤々と、薄い合わさりがふっと離れるその間合い、
何とも言えぬ色香が滲むのへとつい誘われて。
こうまで間近に来たは覚悟あっての誘いと解し、
小さな顎を掬い取り、
そのまま塞げば…抱き込めた薄い肩がひくりと震えて、だが抵抗はないままに。

 「………。」
 「いかがした? 七郎次。」
 「あ〜〜〜、いえ。」

アタシも明日が早いんで、そろそろお暇ましようかと。
何を申すか、男主人は朝寝が常識、雪乃殿もいつぞやそうと口にしておったろが。
し、知りませんよ、そんな常識っ。


  どこまで本気かどこからが冗談かは、御主だけが知っている…。
(大笑)



  〜終わりとうございます〜  08.2.09.


  *プラウザを閉じてあげてください。
(苦笑)